夜のティータイム

□再会――2011
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――ちくたくちくたく――





幾多の時計の針が時を刻む……。





――ちくたくちくたく……





機械油とコーヒーの香りが広がる、決して広いとは言えないこの部屋。

幾多の時計が時を刻むこの部屋。

この部屋の音をやかましいと感じるか、心地よいと感じるか――。


私は後者のほうだ――と言える。


高い高い時計塔。
緑の街の景色は一変して雪景色に変わっている。

外は夜の時間帯。
聖夜を思わせるような淡い雪明りの夜。
シンシンと降りつもる雪を窓から眺めれば、「なんて、安定した時間何だろう」と安堵のため息が出る。

アリスの背後では、相も変わらず、カチャ、カチャと、細かい部品をいじる音を立てて、ユリウスが時計修理作業に没頭していた。



「ユリウス、今夜は冷えるわよ」

「ああ」


いつもその作業を見守る椅子に掛けてある、温かな色合いのブランケットをユリウスの肩にかけてあげる。
――冷えるだろう――。
そう思って、ブランケットをかけてあげたのに、お礼の言葉を返すどころか、ユリウスは生返事しか返さない。




「ねぇ、ユリウス疲れたでしょ ?」


「ああ」
  

「ねぇ、ユリウス夜よ」


「ああ」


「ねぇ、ユリウス。一緒に寝ましょう」


「ああ」





「!!!」




ハッと、ユリウスが修理中の時計からアリスに視線を上げた。



「ふふふ」


「お前……」


「なぁに?」



ユリウスの机にほおづえをついて、わざと至近距離でユリウスの顔をじっと見つめてやれば、ユリウスは照れたように頬を染める。



「……何だ……お前、気持ち悪いぞ」



――気持ち悪いね〜。



ユリウスが照れ隠しで口が悪くなっているのが手に取るように分かる。


そして――。


どうして、こんなに自分の機嫌が良くなってしまうのか、も――。



「ユリウスがいるから、嬉しいのよ」



顔はニマニマ緩みっぱなし。
近くにユリウスがいる事が、こんなに嬉しい。



「変な奴だ……」



ユリウスも心なしか、まんざらでもなさそうな顔だ。




「コーヒー冷えてしまったわね」





ユリウスの時計作業のお共に入れてあったコーヒーのマグカップはすっかり湯気が消えている。




「入れなおしてくわ」

「ああ」




変わらないそっけない返事を返すユリウス。
しかし、今度はちゃんと心がこもっている。
その証拠に、ユリウスに向けられている瞳の色が夜空に瞬く星のように彩を帯びていた。




「――ユリウス、コーヒーを入れている間にいなくならないでね……」




また、いつ、いなくなってしまうかもわからない。



だけど、今だけは――今だけは……。




この空間に浸っていたい。



end


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